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『百人一首解剖図鑑』
谷知子[著] エクスナレッジ 2020 年
深草図書館 深草.和顔館開架2F 911.147/タトヒ 資料番号 12100006058

 『百人一首』は古典文学の中でも、誰もが一度は触れたことがある作品であろう。マンガ、アニメ、映画に使用されるなど、新たな創作の源として現代文化への影響も大きい。カルタ競技は大学のサークルでも盛んだ。しかし、『百人一首』の全体像や収載される和歌や歌人をよく知る人は少ないだろう。本書は、和歌の専門研究者が手がけながら、どのページも半分以上イラストが入り、『百人一首』に関するさまざまな教養が絵と図とグラフで表示される。情報量はすごいのに、初心者が見て楽しめる一冊である。ぜひ手にとってほしい。

文学部教授   安井 重雄

 

『中国の行動原理 : 国内潮流が決める国際関係』
益尾知佐子[著] 中央公論新社 2019年
深草図書館 深草.文庫・新書 081/チユウ/2568 資料番号 11900042551

 独善的な言動で周辺国に圧力をかける中国。その行動原理の理解を目指す本書は現代人に有益な知見を与える好著です。特に参考になるのは国家機関の「家父長制」的性格という考え方。絶対的な権威者(=父)である共産党のトップの高評価を得ようと、多段階の政府や軍の諸機関(=息子達)が、相互調整もせずに成果を必死で競い合う。その過程で相互に矛盾した極端な政策が一国内で出現する。そこにトップの明確な指示が必ずしも存在するわけではない――厳しい「ゼロ・コロナ」政策を急に取りやめ、数週間で爆発的な感染者を生み出して平然としている昨今の現象はその典型でしょう。

経済学部教授   大原 盛樹

 

『同志少女よ、敵を撃て』
逢坂冬馬[著] 早川書房 2021年
瀬田図書館 瀬田.本館B1開架 913.6/アトト 資料番号 32205000961

 人類史上最大の地上戦と言われる「独ソ戦」は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、再び言及されることが多くなった。本書はその2022年に大変話題となった小説だ。ソ連軍に多く実在した少女狙撃兵の一人を主人公に、悲惨な戦争を生きる人々を活写する。緊迫の戦闘シーンの描写は出色だ。そして少女が本当に撃つべき「敵」が、衝撃のラストではっきりと姿を現す…。事前に大木毅『独ソ戦』(岩波新書、2019年)を読んでおくとより楽しめるだろう。そして本書を読んだ後は、是非、アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫、2016年)に挑戦してほしい。

経営学部准教授  竹内 綱史

 

『民主主義の経済学 社会変革のための思考法 : the economics of democracy』

北村周平[著]日経BP  2022年
深草図書館 深草.和顔館開架B2  313.7/キシミ  資料番号 12200036957

 年配の方が「政治経済学」と聞くと「マルクス経済学」を連想するかもしれない。この本はミクロ経済学の分析枠組みで民主政治を分析する読み物である。有権者は選挙を通じて政策を選択するという前提で議論が進められる。政治学の立場から民主主義を論じる本は思想や歴史に依拠するものが多いが、この本は数理モデルとデータ分析によって民主主義を攻略する。現代の社会科学が、数学とデータ分析の力で実践的な政策を作り出すサイエンスだと感じさせる一冊である。

法学部教授   濱中 新吾

 

『気候民主主義 : 次世代の政治の動かし方』
三上直之[著]岩波書店 2022年
瀬田図書館  瀬田.本館2F開架  519.1/ミナキ  資料番号 32205016765

 「気候市民会議」をご存知でしょうか?気候変動問題に関する意思決定に市民の意見を反映させるツールとして、欧州を中心に国際的な広がりを見せる取り組みです。龍谷大学では、昨年度から大学では初となる「龍谷大学学生気候会議」を開催しています。気候問題は市民の主体的な参画なしには解決不可能です。本書はその要点をわかりやすく解説した良書です。ぜひ一読して、来年度は皆さん自身が学生気候会議に参加して下さい!

政策学部教授  的場 信敬

 

『英語支配の構造 : 日本人と異文化コミュニケーション』
津田幸男[著]第三書館  1990年
深草図書館  深草.和顔館開架B2  830.4/ツユエ  資料番号 19060046664
深草図書館  深草.8号館閉架3F  830.4/ツユエ-C  資料番号 11205052354
大宮図書館  大宮.積層開架  830.4/TSU  資料番号 29300016250

 日本ではグローバル化に対応すべく、小学校高学年では英語が教科化され、中学校では英語の授業を英語で行うことが基本となり、高等学校では発表や討論、交渉を含めた言語活動の高度化が英語の授業に求められるまでになりました。今やクラシックとなった本書は、「国際共通語としての英語」の広がりに警鐘を鳴らし、現在の英語教育政策を批判的に考察するきっかけを与えてくれます。英語が当たり前と思われている時代だからこそ、一読をお勧めします。

国際学部教授  松村 省一

『琵琶湖は呼吸する』
熊谷道夫, 浜端悦治, 奥田昇[著]海鳴社 2015年
深草図書館 深草.和顔館開架B1 452.93/クミヒ 資料番号 11600000041

 

 琵琶湖では,春に酸素をたくさん含む雪解け水が流れ込むことで湖水が鉛直循環し,湖底に生息する生物に酸素を供給している。これを本書では「呼吸する」と呼んでいる。こうした特徴的な湖水の動きにとどまらず,琵琶湖の生い立ちや生態系,水質,周辺地域や人間活動との関わり,気候緩和作用や地球温暖化との関係など,琵琶湖に関する様々な事象や課題を平易にまとめた本書は,琵琶湖のみならず人と湖との関わり方について様々な示唆を与えてくれる良書である。

先端理工学部教授  岸本 直之

 

『中世の覚醒 : アリストテレス再発見から知の革命へ』
リチャード・E.ルーベンスタイン[著]小沢千重子[訳]紀伊國屋書店  2008年、筑摩書房 2018年
大宮図書館  大宮.3F開架図書  430.2/RUB  資料番号 20805021054
瀬田図書館  瀬田.本館B1開架  230.4/ルリチ  資料番号 30805004886
深草図書館  深草.和顔館開架B1  230.4/ルリチ  資料番号 11900013032
瀬田図書館  瀬田.本館1F文庫  081/チクマ/41-8-1  資料番号 31800007264

 

  古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスの著作は、その後のローマ帝国の時代を経て、中世ヨーロッパではほとんど忘れ去られていました。しかし12世紀にいくつかの著作が再発見されるや否や、それはキリスト教が強固に支配していた中世の社会体制を解体し、近代社会を生み出す原動力になりました。本書をつうじて、ひとつの思想が現実に世界をつくりかえた歴史を知れば、知と本に途方もない可能性が秘められていることを実感できるでしょう。

社会学部教授  村澤 真保呂

 

『WHAT IS LIFE?:生命とは何か』
ポール・ナース[著]竹内薫[訳] ダイヤモンド社  2021年
瀬田図書館  瀬田.本館2F開架  461/ナホホ  資料番号 32100004472

  

 細胞周期の研究で2001年にノーベル生理学・医学賞を受賞した英国の生物学者が、生命の本質を探究する。「細胞」「遺伝子」「自然淘汰による進化」「化学としての生命」「情報としての生命」という5つの考え方を、生物学の重要な発見を紹介しながら平易な文章で紐解いていく。幼少期の生き物に対する好奇心が自らの研究や生命観につながった経緯や、研究で新しい発見をした時の興奮がみずみずしく伝わってくる。

農学部教授  三柴 啓一郎

 

『モモ : 時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語』
ミヒャエル・エンデ[著]大島かおり[訳] 岩波書店  1976年、1996年、2005年
深草図書館  深草.和顔館開架2F  943/エミモ  資料番号 10000069302
大宮図書館  大宮.積層開架  943/END  資料番号 29900036703
深草図書館  深草.和顔館開架2F  948/エミエ/3  資料番号 19600085817
瀬田図書館  瀬田.自動化書庫  948/エミエ/3  資料番号 39600113564
瀬田図書館  瀬田.本館B1開架  943/エミモ  資料番号 31000012718

  

 児童文学にジャンルされるこの本を子どもの頃に読んだことのある人も多いのではないでしょうか。私が初めてこの本を読んだのは小5のときで、人の時間を盗む灰色の男が怖かったことと挿絵が怖かったことしか覚えていないぐらいでしたが、大人になって読み返してみると(当然ながら…)その時とは違う景色がそこに広がってみえました。本の楽しみ方の一つにその本と出会った年齢なりの景色や気づきがあります。モモに限らず、ぜひ一度、昔読んだ本を読み返してみてください。新しい発見があなたを豊かにしてくれるはずです。

短期大学部教授  伊藤 優子

 

『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した : 潜入・最低賃金労働の現場』 
ジェームズ・ブラッドワース[著]濱野大道[訳]光文社  2019年
瀬田図書館  瀬田.本館1F開架  366.02/フシア  資料番号 31905032257

  

 イギリスの低賃金労働の実態を探るためにジャーナリストである著者が2016年から開始した潜伏取材——ジャーナリストではなく労働者として、アマゾンの倉庫やコールセンター、ウーバーのタクシードライバーなど、最低賃金労働の現場で働いた記録である。生々しい記述を読み進めるうちに気づくのは、著者を「絶望」「発狂」させた働き方が、私たちにとってありふれた働き方、たとえば学生バイトと地続きであることかもしれない。

経営学部准教授  妻木 進吾

 

来・ぶらり67号(2023.3)