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1. 図書館の資料を使ったユニークな研究について(紹 介)

投稿日時: 2020/03/24 大宮

2019年度に、ユニークな図書館利用がありました。理工学部環境ソリューション工学科の4年生(木村俊太郎、桑木捷汰)が、江戸時代に出版された書籍からヒトの毛髪を抜き取っていったのです。

 

大宮図書館の地下には、主に江戸時代から明治時代にかけて印刷・製本された和装本が、およそ7万冊も所蔵されています。当時の和装本は、表紙と裏表紙に使われる厚紙に、安価な再生紙を利用しています。ヒトの毛髪は、この再生紙に漉き込まれていて、書籍を傷つけることなく抜き取ることができます。しかも、毛髪の主がどの時代にどの地域で生きた人物なのか、和装本の刊記に記された刊行都市や出版年から推定できるのです。

 

毛髪からは、科学分析によってさまざまな情報を引き出すことができます。

 

桑木さんは、動物の食性を調べるために生態学者が用いる「安定同位体分析」を行いました。この分析は、主食(炭素源)は何か、主菜(タンパク源)は何かを推定するのに役立ちます。過去に、22題の和装本に対してこの分析が行われましたが(Maruyama et al. 2018Scientific Reports誌)、桑木さんの分析は、刊記の情報が確からしいものだけを厳選しても253題に及びました。当然、より信憑性の高い結果が得られました。分析によって示された次の傾向は、歴史学が古文書を読み解いて明らかにしてきた史実を、定量的に裏付けるものです。

▶現代人と比べ、江戸時代の都市に暮らす庶民は、米と海産物に純粋に依存していた

▶現代人と比べ、江戸時代の都市に暮らす庶民は、地域間での食性の違いが顕著であった

1650年から1900年まで、三都いずれにおいても、海産物への依存が高まっていった

▶海産物への依存は、上方(大坂・京都)で先行した

1650年から1900年まで、三都いずれにおいても、粟や稗を食べる割合が減り、米を食べる割合が増加した

▶米食への移行は、上方で先行した

 

一方、木村さんは、農業や上水を取り巻く環境の変遷を調べるべく、PIXE分析に取り組みました。この分析は、試料に陽子をぶつけることで発生する励起X線の特性から、数十種類の元素の含有量を非破壊的に測定するものです。千葉県の放射線医学研究所のお世話になって分析が進みました。分析が完了した20題の分析結果から、現代と江戸時代の飲料水の違いや、各種ミネラルの摂取量の違いなど、非常に興味深い傾向が見え始めています。

 

学長室(広報)の企画でも、取り上げられました。
( https://www.ryukoku.ac.jp/challenger/challenger52/20190725/index.html )
卒業研究としてまとめられた2人の研究は、後輩に引き継がれ、より踏み込んだ解析を経て学術雑誌などに発表されるとのことです。図書を所蔵することの新しい意義を見いだしたという点においても、ユニークな研究活動として、注目されます。

 

 

*木村さん、桑木さんの研究について、もっと知りたい方は、下記より、お二人の研究報告にアクセスできます。ぜひご覧ください。
https://opac.ryukoku.ac.jp/iwjs0005opc/lib/data/pdf/kimura_kuwaki003.pdf


大宮図書館書庫で毛髪が漉き込まれている古典籍を選定しています



毛髪が漉き込まれている古典籍の表紙の裏側です




毛髪が漉き込まれていた古典籍の正確な刊行年代の鑑定作業をしています




漉き込まれた毛髪を分析機にかけ、同位体分析の作業をしています