『新版 徒然草 現代語訳付き』
兼好法師[著] 小川剛生[訳注] KADOKAWA 2015 年
『徒然草』というと、「無常観」、隠者文学などと教わるが、近年研究の進展が著しく、鎌倉後期から南北朝に至る動乱の時代を背景とした思索のありようが注目されている。ともに改革を唱える武家と貴族それぞれの政治への視線、社会不安、政治的事件、また宗教者、博打、芸能者、障害者への視線など、社会のあらゆる要素に兼好が批評を加える。全243段のどこからでも読めるのも魅力である。
文学部教授 安井 重雄
大宮図書館 大宮. 積層開架 914.45/YOS 資料番号 22100026853
『それから』
夏目漱石[著] 岩波書店 2006 年
ベストセラーとなっている斎藤幸平(2020)『人新世の「資本論」』(集英社新書)でも紹介されているように、マルクスは「必然の国」の上に広がる「自由の国」の可能性について模索しました。漱石が『資本論』を読んでいたことは知られていますが、この小説では、「高等遊民」として「自由の国」に生きようとする主人公が、自分の内なる自然に従って友人の妻との恋愛を成就させるやいなや「必然の国」で破滅せざるを得なくなる姿を見事に描き出しています。日本で資本主義が発達し始めて間もない頃の作家の洞察力に驚かされます。
経済学部教授 佐々木 淳
深草図書館 深草. 文庫・新書 081/ イワナ/W273 資料番号 10605043998
『実力も運のうち : 能力主義は正義か?』
マイケル・サンデル[著] 鬼澤忍[訳] 早川書房 2021 年
「親ガチャ」という言葉が流行っていると聞く。親の経済力等が子どもの人生を決めてしまう理不尽を言い募る言葉だ。そうではなく、能力のある者が努力したらちゃんと報われる社会こそが正しいはずだ、と。この発想を「能力主義」という。だが本書はその「能力主義」こそ間違いだと主張する。なぜなら、能力主義には必ず、「報われてない奴は能力が無いか努力をしてないのだ」という負の主張を伴うからだ。所謂「自己責任論」である。むしろ、人生とは「ガチャ」であると認めることから始めるべきなのだ。あなたが龍谷大学に来たのも「ガチャ」のなせるわざなのである。その幸運に感謝。
経営学部准教授 竹内 綱史
瀬田図書館. 瀬田本館1F 開架 361.8/ サマシ 資料番号 32100010798
『あぶない法哲学常識に楯突く思考のレッスン』
住吉雅美[著] 講談社 2020 年
本書は「答えのない問い」で読者の「思考を鍛錬する」。「とくに日本人は生真面目で常識を疑わず、考えもせずにルールに従い、体制に逆らわないところがある」。「常に権威や社会常識に悪ガキのような疑問を持って逆らっていく気持ちはとても大事で」、「もうすこしみんなヤンチャな思考になってもいい」(本書の「はじめに」より)。このような思考のクセ(問う力)は、民法等の実定法の学び(や卒業後)にも有益である(判例は唯一の正解でない)。
法学部教授 若林 三奈
深草図書館 深草. 文庫・新書 081/ コウタ/2571 資料番号 12000005682
『地球の未来を守るために』
環境と開発に関する世界委員会[編] 福武書店 1987 年
SDGs が社会的なトレンドになっていますが、この概念を最初に規定したのが、1987 年に国連の通称ブルントラント委員会が発表したこの報告書です。読み物ではないので正直面白いものではありませんが、SDGs で取り組まれている全てのことが、実は30 年以上前からその必要性を指摘されていたことがわかります。人間社会の変革がいかに難しいことか、そしてだからこそ、あらゆる利害関係者が今出来る最善を行うことの重要性を、ぜひ感じて頂ければと思います。
政策学部教授 的場 信敬
深草図書館 深草. 和顔館開架B1 519/ カンチ 資料番号 18760022625
瀬田図書館 瀬田. 本館2F 開架 519.8/ カンチ 資料番号 39600038871
『人新世の「資本論」』
斎藤幸平[著] 集英社 2020 年
本書は、コロナ禍のなかでベストセラーになった本である。現在の持続不可能な社会を何とかするためには、経済成長を求めることなく、人間らしい豊さを実現する「脱成長」という考え方へ移行すべきであり、そのヒントはカール・マルクスの思想にあるとする大変刺激的な著作である。多くの経済学者や経営学者には、この主張は安易な資本主義批判に見える。しかし脱成長はすでに世界では実践されつつあり、安易な批判と言っている人々自身がその言葉を正面から受け止めなければならない。
国際学部教授 斎藤 文彦
深草図書館 深草. 文庫・新書 081/ シユウ/1035 資料番号 12000016526
『水しらべの基礎知識環境学習から浄化の実践まで』
山田一裕[著] オーム社 2009 年
近年の環境意識の高まりにより、行政だけでなく、市民レベルでも様々な環境保全活動への取り組みが活発に行われています。しかし、実際に活動をする上で、活動対象となる環境の状況を把握し、活動の効果を定量的に評価することはなかなか難しいものです。
本書では、市民活動など専門家以外の方の利用を想定し、水域の環境保全活動で利用可能な簡易な分析・測定方法を紹介しています。著者の山田先生は生協での環境保全活動から青年海外協力隊を経て大学教員となられた方で、ご自身の経験を踏まえ、市民との協働を意識して本書を執筆されています。環境学習や環境NGO などの活動まで、水域の環境保全活動を実践する上で是非ご一読されることをお薦めします。
先端理工学部教授 岸本 直之
深草図書館 深草. 和顔館開架B1 519.4/ ヤカミ 資料番号 10905056706
瀬田図書館 瀬田. 本館2F 開架 519.4/ ヤカミ 資料番号 30905051705
『認知症イノベーション』
阿久根賢一[著] プレジデント社 2020 年
"自由と自立の家" を理念とする社会福祉法人福祥福祉会・豊泉家が研究開発をした認知症高齢者への革新的なケア・メソッドがイラスト付きで説明されています。現場でのたゆみない研鑽から生みだされた「ロジカルケア」と「ラテラルケア」を駆使した画期的な対応法が事例付きでわかりやすく解説されています。認知症高齢者のできることを引き出し尊重する卓越したサービスが本書に集約されています。これまでの社会福祉施設の既成概念をはるかに超える斬新な豊泉家のサービス全体がイノベーションですが、その一端を本書からぜひ知ってほしいと思います。社会福祉を学ぶ学生の必読の書として推薦します。
社会学部教授 大塩 まゆみ
瀬田図書館 瀬田. 本館1F 開架 369.26/ アケニ 資料番号 32100006543
『わさびの日本史: 鮨・蕎麦・刺身…和食との出会いを探る』
山根京子[著] 文一総合出版 2020 年
ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」に欠かせない薬味であるワサビ。身近な食材であり、日本で栽培化された植物であるにもかかわらず、その来歴は謎に包まれている。著者は栽培植物起源学を専門とする研究者であり、全国の自生地や栽培地を訪れ、また古文献を網羅的に調査することにより、ワサビの様々な謎に挑んでいく。ワサビと日本人の関わりの歴史を紐解く文章から伝わってくる、著者のワサビに対する熱量に圧倒される。
農学部教授 三柴 啓一郎
瀬田図書館 瀬田.本館2F 開架 657.86/ ヤキワ 資料番号 32005023508
『ジョニーは戦場へ行った』
ドルトン・トランボ [著] 信田英男[訳] 角川書店 1971 年
本書は、第1 次世界大戦を舞台にイギリス兵であるジョニーが、戦場で砲弾を受け、脳以外の身体のほとんどを損傷し、壊死により四肢をそぎ取られるも、半狂乱の中から次第に自己を取り戻し、障害受容をしていく様を描いている。そして、その果てに自己の醜い姿をさらし者にして、「この生きる屍は、神様が創ったのではなく、戦争という人間の愚かな行為が創り出したものである。」とモールス信号で訴え、反戦運動を行おうとするも、軍の力により、彼の訴えは闇に葬られる。障害受容と反戦の二つの見地からの興味深い書である。
短期大学部教授 安井 豊子
深草図書館 深草. 和顔館開架2F 993/ トトシ 資料番号 12100039402