学生に薦めたいこの一冊

 

 

ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた:あなたがあなたらしくいられるための29問表紙画像L水尾先生

『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた:あなたがあなたらしくいられるための29問』

佐藤文香[監修]、一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同[著]、明石書店、2019年
瀬田図書館:瀬田.本館1F開架、367.2/ヒトシ
資料番号31905021141

 専門家によるジェンダー入門書は多数出版されていますが、本書は、大学生が中心となってまとめた入門書です。取り上げられている問いは、私たちに身近なものばかりで、初心者・中級者・上級者向けの回答が各々の問いに示されています。資料に基づき客観的かつ丁寧に語り掛ける文章は読みやすく、ジェンダー研究のゼミの熱気が垣間見られます。また、「自分がなにに縛られて生きているのかを理解することで、これまで感じてきた『生きづらさ』を解消する道を探ることができるようになります」(序論より抜粋)とあるように、思わぬ気づきを与えてくれる本でもあります。

文学部 教授 水尾文子

汝、星のごとく表紙画像V赤津先生

『汝、星のごとく』

凪良ゆう[著]、講談社、2022年
瀬田図書館:瀬田.本館B1開架、 913.6/ナユナ
資料番号 32305003066

 マイノリティへの強く優しい思いが伝わってくる1冊である。今の世の中は、差別や偏見をなくそうという声であふれている。メディアでは、それに同調するような発言が続いている。自分もその声に普通に同調する。そんな社会の一員として無難に日常をこなして、自分の中の差別や偏見から目をそむけて暮らしていないだろうか。もちろん、そんな自分を否定する必要はない。ただ、目の前にいる人の生きざまを無条件に尊重できる、そんな生き方を考えたい人にお勧めしたい。

心理学部 教授 赤津玲子


ジェンダー格差:実証経済学は何を語るか表紙画像E大原先生

『ジェンダー格差:実証経済学は何を語るか』

牧野百恵[著]、中央公論新社、2023年
深草図書館:深草.文庫・新書、 081/チユウ/2768
資料番号12300024751

 男女格差がなくならない原因はなんだろうか。著者は南アジアの女性の教育や労働参加の現場に入り込み、女性の地位向上政策の効果を実証経済学という手法で分析を重ねてきた。最先端の学術的議論をベースに、男女格差が続く原因として本書が示したのは、歴史的に形成された「女性らしさ」という「規範」と、それをベースに家庭、学校、職場、市場等が複雑に入り組んだ制度の中で、男女ともが自ら縛られているという現実である。一方、強固に見える「規範」だが、その変わりやすさも指摘する。客観的な分析の重要性がわかる好著。

経済学部 教授 大原盛樹

想像ラジオの表紙画像B竹内先生

『想像ラジオ』

いとうせいこう[著]、河出書房新社2013年
瀬田図書館:瀬田.本館B1開架、913.6/イセソ
資料番号 31305034484

 本書は、東日本大震災の津波で流された主人公が、樹上に引っかかったままDJとしてラジオの放送をするという、奇想天外な小説である。本書のメッセージは単純だ。私たちはいつの間にか死者の声を聴くことを忘れてしまった。しかし私たちはいつだって、死者と手を携えて前に進んできたのではなかったか。とはいえ、本書は決して重く暗い小説ではない。「想像ラジオ」のDJは軽妙なトークを繰り広げる。だが、その軽さが逆に、その裏にある圧倒的な重さを予感させる。今年もまた震災が起きた。あなたにも「想像ラジオ」が聴こえているだろうか。

経営学部 教授 竹内綱史


イスラエルvs.ユダヤ人:中東版「アパルトヘイト」とハイテク軍事産業表紙画像J濱中先生

『イスラエルvs.ユダヤ人:中東版「アパルトヘイト」とハイテク軍事産業』

シルヴァン・シペル[著]、林昌宏[訳]、明石書店、2022年
瀬田図書館:瀬田.本館1F開架、302.285/シシイ
資料番号 32205004500

 昨年10月に発生したハマースとのガザ戦争は日本と世界の耳目をイスラエルに向けさせた。著者はユダヤ人だが反シオニスト、つまりイスラエルに反対する立場である。 この国が建国から今日にかけていかなることをしてきたのか、とりわけ近年の右傾化現象がいかなる理由でどのように生じているのかを、詳しく知ることができる。 この手の類書は数多いが、現代イスラエルを知る上で不可欠の一冊だと言える。

法学部 教授 濱中新吾

天災から日本史を読みなおす:先人に学ぶ防災表紙画像H石原先生

『天災から日本史を読みなおす:先人に学ぶ防災』

磯田道史[著]、中央公論新社、2014年
深草図書館:深草.文庫・新書、081/チユウ/2295
資料番号11800040090
瀬田図書館 :瀬田.本館1F文庫、 081/チユウ/2295
資料番号31400030344

 わが国では実に様々な大災害に見舞われ、その都度、大災害から乗り越えてきました。 本書では、「歴史」という長いスパンで大災害を俯瞰し、大災害が歴史に与えた影響や、 大災害をやり過ごしてきた知恵を、史実をもとに教えてくれます。 能登半島地震や南海トラフ地震など、「いま」や「未来」の災害に目がいきがちですが、 「歴史」から災害を学ぶことで、次なる大災害を乗り越えるための道標が得られるでしょう。

政策学部 准教授 石原凌河


半島を出よ(上・下)表紙画像U松村先生

『半島を出よ(上・下)』

村上龍[著]、幻冬舎、2005年
(上巻)瀬田図書館:瀬田.本館B1開架、913.6/ムリハ/1
資料番号 30500030301
(下巻)瀬田図書館:瀬田.本館B1開架、 913.6/ムリハ/2
資料番号 30500031632

 テロリストが、九州・福岡を占拠したら、平和に慣れた日本政府は、そして日本の住民は、どういう対応を取るのか。決して絵空事とは言えない状況を描いた、村上龍渾身のリアリティー感ある長編小説。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとハマスの戦争は、この小説で描かれた世界が空想の産物だけではないことを証明しているかのようである。村上龍の広範な知識と精緻な描写が楽しめる小説で、ぜひお薦めしたい。

国際学部 教授 松村省一

生きる死者:災害と仏教 表紙画像Y道元先生

『生きる死者:災害と仏教 』

白石凌海[著]、ノンブル社、2017年
大宮図書館:大宮.3F開架図書、 285.59/SHI
資料番号 21700011243

 天明三年(1783)に起きた浅間山大噴火によって、その被害は関東一円の広範囲におよび多数の死者が出た。筆者は当時の史料調査をもとに災害と仏教の果たしてきた役割について語る。また著者は2011年東日本大震災の直後から被災地に度々出向き、災害と心のケア・精神医学の面からも考察し、最先端医療行為と仏教儀礼とが互いに補充し合いながら進化する必要を述べる。仏教のみならず、現代の医療技術・心理学・民俗学などへも言及し、一連の追善供養を通して生者と死者が一体となった世界観を読み解く本書をぜひ一度手にとってほしい。

先端理工学部 教授 道元徹心


社会保障裁判研究 : 現場主義・創造的法学による人権保障表紙画像C田中先生

『社会保障裁判研究 : 現場主義・創造的法学による人権保障』

矢嶋里絵, 田中明彦, 石田道彦, 高田清恵, 鈴木靜[編著]、ミネルヴァ書房、2021年
瀬田図書館:瀬田.本館1F開架、364/ヤリシ
資料番号 32105012861

 医療保険、年金、最低賃金額とも連動する生活保護、保育所など、私たちの生活にとって欠かせないのが社会保障です。現在、社会保障の引下げ、支給拒否が生じています。そのような事態に抗して当事者・弁護士・研究者・支援者の協働により取り組まれた社会保障裁判を、事実・実態・政策動向・裁判による法政策形成機能を踏まえ、研究方法・理論的課題を提示した学術書であり、社会を変える手段を示した社会変革の書でもあります。社会のあり方を模索・展望するうえで一助となる文献です。

社会学部 教授 田中明彦

サカナとヤクザ : 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う表紙画像

『サカナとヤクザ : 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』

鈴木智彦[著]、小学館、2018年
瀬田図書館:瀬田.本館1F開架、368.5/ストサ
資料番号 31905036206

 魚が変だ。近年サンマやサケが不漁の一方、北海道でブリの漁獲が増えたりしている。これを海水温の上昇など、海洋環境の変化に求める意見は多い。しかし環境変化のみを強調することは、資源管理のマズさという日本水産業の宿痾にその原因の一端があることを、覆い隠してしまうだろう。そしてこの本はその宿痾が、乱獲、密漁された魚介類が食卓に普通に並ぶほどのものであることを、体を張ったルポで教えてくれる。うまい魚を求める我々消費者にも事の責任はあるのか、考えさせられる内容にもなっている。

農学部 准教授 渡邊洋之


日本」ってどんな国? : 国際比較データで社会が見えてくる表紙画像S松田先生

『「日本」ってどんな国? : 国際比較データで社会が見えてくる 』

本田由紀[著]、筑摩書房、2021年
瀬田図書館:瀬田.本館1F文庫、 081/チクマ/386
資料番号 32105045792

 家族・ジェンダー・学校・友だち・経済,仕事・政治,社会運動・日本と自分というテーマに沿って日本社会の様々な面を世界各国のデータと比較しています。今まで「当たり前」だと思っていたことが、実は「変」だったということに気づかせてくれる1冊です。私たちが暮らす日本社会はどんな国なのか、私たちは何をすべきか考えるヒントが満載です。

短期大学部 教授 松田美智子

来・ぶらり69号(2024.3)