瀬田図書館のミニ展観

 

 『来・ぶらり』第66号(2022年10月発行)で瀬田図書館のシリーズ展観「○○月間」を取り上げました。今回は瀬田図書館のもう一つの月替わりのシリーズ展観「文豪の生誕・没後○○周年」について紹介します。 総務省統計局の調査によると、ここ最近の日本国内の出版点数は年間約7万点です。毎年多くの方が書籍を出版されますが、作品創作を職業とするいわゆる作家と呼ばれる方はごく一部です。さらに文才・人気と共にきわめて優れ、亡くなった後も読み継がれる作家が文豪といわれています。中には宮沢賢治の様に生前は全くの無名であったのに死後になって評価される方もおられます。このシリーズ展観で取り上げる文豪たちの作品を読んだことはなくても名前ぐらいは聞いたことがあるでしょう。今まで読んだことのなかった文豪、今まで興味の湧かなかったジャンル、今まで手に取ったことのない本も、読んでみれば案外はまってしまうかもしれません。永く多くの方に読み継がれるには、やはり読者を引き付ける魅力が詰まっているのでしょう。文豪の作品は映像化されることも多く、DVD等の映像資料を所蔵していれば併せて展示しています。敷居が高いと思われる方は、先ず映像資料から一歩を踏み出すのも良いかもしれませんね。 生誕○○周年なら生まれ月に、没後○○周年なら亡くなられた月にミニ展観を実施しています。展示場所は本館地下1階、文学のジャンルの書籍を配架している書架のすぐ近くです。下表がその展観リストです。この記事では2023年実施の中から4つをピックアップして紹介します。図書館ホームページのお知らせ欄には実施済みのミニ展観の内容も残っていますし、終了後はWeb書棚機能を活用して展示内容を再現しています。各お知らせページの下部に「展示リストはここをクリック!」を設けていますので、そこからご覧ください。

2023年 2024年予定
1月 池波正太郎生誕100周年 1月 山本有三没後50周年
2月 志賀直哉生誕140周年 2月 直木三十五没後90周年
3月 遠藤周作生誕100周年 3月 安部公房生誕100周年
4月 金子みすゞ生誕120周年 4月 シェイクスピア生誕460周年
5月 寺山修司没後40周年 5月 相田みつを生誕100周年
6月 山本周五郎生誕120周年 6月 竹山道雄没後40周年
7月 新美南吉生誕110周年 7月 サン=テグジュペリ没後80周年
8月 司馬遼太郎生誕100周年 8月 いわさきちひろ没後50周年
9月 宮沢賢治没後90周年 9月 小泉八雲没後120周年
10月 織田作之助生誕110周年 10月 灰谷健次郎生誕90周年
11月 アルベール=カミュ生誕110周年 11月 山崎豊子生誕100周年
12月 ファーブル生誕200周年 12月 宮尾登美子没後10周年

※2024年度分について、テーマを変更することもあります。

Topic in Seta

大津市立瀬田中学校では「キャリア教育」の一環として「瀬田中チャレンジウィーク」という職業体験授業が2年生を対象に行われています。コロナ禍の3年間、中止されていましたが、2023年から再開されました。その実習先として龍谷大学瀬田図書館も2名の生徒さんを受け入れ、11月28日から30日までの3日間、貸出返却のカウンター業務をはじめ、レファレンス、雑誌の受入れ、傷んだ図書の修理等々の様々な業務を体験してもらいました。最終日が月末だったことから、ミニ展観の入替えやホームページのお知らせページの作成にもチャレンジしてもらいました。実は12月のミニ展観に取り上げる文豪は当初別の人物を予定していたのですが、中学生にも馴染みがある「ファーブル」に急遽変更しました。どの文豪を取り上げても、すぐに多彩な資料が揃えられる、これが龍谷大学図書館の強みの一つではないでしょうか。

池波正太郎生誕100周年

2023年は池波正太郎生誕100周年にあたります。池波正太郎と言われてピンとこない方も「鬼平犯科帳」や「必殺仕掛人」なら聞いたことがあるのではないでしょうか。映画やテレビでシリーズ化され人気を博し、現在でもコミック化された新刊が書店やコンビニに並んでいます。

1923(大正12)年1月25日、東京に生まれ、亡くなられたのは1990(平成2)年5月3日。小学生の頃からチャンバラ映画や小説に没頭し、家庭の事情で奉公に出てからも給料を読書・映画・観劇・旅行に注ぎ込み、後の執筆作品の素地が作られたと思われます。戦後、長谷川伸に師事し、創作した戯曲が多数上演される一方で、1960(昭和35)年に『錯乱』で第43回直木賞、1986(昭和61)年に紫綬褒章を受賞。その他の代表作は『剣客商売』や『雲霧仁左衛門』など。仕掛人シリーズの『殺しの四人』など英訳された作品もあります。時代小説だけでなく「食」に関する造詣も深く、エッセイなども多数執筆されています。

ちなみに2021(令和3)年の第166回直木賞受賞の今村翔吾さん(大津市在住)は小学生の頃に読んだ池波正太郎の長編小説『真田太平記』が「読書の入口」だったと語っておられます。

生誕100周年を契機に、池波正太郎の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

金子みすゞ生誕120周年

2023年は金子みすゞ(1903年4月11日~1930年3月10日)生誕120周年にあたります。1923年(大正12年)20歳の時に「金子みすゞ」というペンネームで童謡を書き始め雑誌「童話」「婦人クラブ」「婦人画報」「金の星」に投稿。才能を認められ『童謡詩人会』への入会を認められたみすゞ。一見、順風満帆な人生に感じますが、実は3歳の時に父親を不慮の事故で亡くし、みすゞが結婚した夫にも問題がありうまく行かず離婚。夫との間にもうけた1人娘を自分の手元で育てたいと懇願するも夫に親権を強硬に要求され、1930年(昭和4年)3月10日26歳の短い生涯を閉じました。そんな金子みすゞの詩集の原点は「自然とともに生き、小さな命を慈しむ思い、いのちなきものへの優しいまなざし」と言われています。小学校の国語の教科書に掲載されている「わたしと小鳥とすずと」から現在の小学生にも金子みすゞの思いが伝わっているのではないでしょうか。

司馬遼太郎生誕100周年

2023年は司馬遼太郎(1923年8月7日~1996年2月12日)生誕100周年にあたります。司馬遼太郎は歴史小説界の巨星と称されており、戦国・幕末・明治を舞台とした歴史小説を数多く執筆し、1958年から1959年に宗教専門誌「中外日報」で連載された「梟の城」で直木賞を受賞しています。司馬遼太郎の歴史小説は日本史の出来事や人物を題材にし、切れのいい高揚感のある文体、分かりやすく明快なキャラクター造型、ユーモアのある語り口等で歴史小説に新風を巻き起こしたのです。今なお続くNHKの大河ドラマでもっとも多くの原作を提供しているのも司馬遼太郎であると言っても過言ではありません。歴史を愛し歴史の中に素晴らしい友人がいて、2千年以上の時間の中を生きているようなものだと言っている司馬遼太郎が「二十一世紀に生きる君たちへ」の中では未来について私達に分かりやすく語りかけてくれています。この夏は司馬遼太郎の世界にどっぷり浸るのもいいかもしれません。

ファーブル生誕200周年

2023年はファーブル(1823年12月21日~1915年10月11日)生誕200周年にあたります。ファーブルといえば『ファーブル昆虫記』、1878年に第1巻を書き上げ、約30年の期間をかけて全10巻が出版されました。ファーブルらしく本の体裁は論文ではなく語り口調で書かれており、科学書というよりも文学的な読み物として評価を得ました。そのファーブルの根源にあるのが幼少期の経験だと言われています。家が貧しかったこともあり幼少期は両親の元を離れ、自作農をしている祖父の家に預けられます。自然豊かな環境だったため身近に生き物がいる事が当たり前で、身近にいる虫に対する無知が始まりでした。自分の知らない虫の世界を観察し、明らかにしていくことがファーブルの原体験です。あまり知られていませんが、ファーブルは数学と物理学の教師でもあり、詩人としても業績を遺しています。しかしファーブルの興味の対象は常に生きている虫そのものだったのです。この機会にファーブルの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

来・ぶらり69号(2024.3)